学会誌

看護理工学会誌 12巻

原著

初学者を対象とした非対面での膀胱エコー教育による 技術習得度に対する効果検証:対面教育・遠隔ライブ 教育・VR オンデマンド教育の比較

松本 勝 ほか | P.1

初学者を対象とした非対面での膀胱エコー教育による技術習得度に対する効果検証:対面教育・遠隔ライブ教育・VRオンデマンド教育の比較

著者

松本 勝1,2 大西 陽子2 下橋 和也3 杉浦 裕愛3 山本 翔子3 大橋 史弥2,4 峰松 健夫2 真田 弘美5 紺家 千津子2

所属

  1. 石川県立看護大学大学院看護学研究科共同研究講座ウェルビーイング看護学
  2. 石川県立看護大学成人・老年看護学講座成人看護学
  3. 石川県立看護大学看護学部看護学科
  4. 石川県立看護大学成人・老年看護学講座老年看護学
  5. 石川県立看護大学

要旨

【目的】本研究では,非対面教育媒体としてビデオ会議システムおよびバーチャルリアリティ(VR)を活用した遠隔ライブエコー教育プログラムを開発し,初学者が対面での教育に劣らない教育効果を得ることができるか検証した.【研究方法】対象者である看護学部生を対面群,遠隔ライブ群,VRオンデマンド群に分け,それぞれ計30分のプログラムを受講した.受講後の技術習得度として,エコーを用いて測定した膀胱内尿量と真値との差(ml)を算出し,3群間の比較を行った.加えて受講後の主観について評価した.【結果】真値との差(ml)に3群間で有意差はなかった.満足度では,対面・遠隔ライブ教育群,理解度では遠隔ライブ教育群がそれぞれVRオンデマンド教育群より有意に高かった.【結論】30分間のエコーによる膀胱内尿量測定教育プログラムにおいて,非対面教育でも対面教育と同等の教育効果が得られることが明らかになった.

キーメッセージ

  1. 今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?
    研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?
    これまで対面が前提であった看護師のためのエコー教育が新興感染症流行下では受講しにくい状況にあった.本研究ではそれを解決するための非対面教育の開発と効果検証を行った.
  2. この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?
    今後さまざまなエコー技術やほかの看護技術に応用し,対面で実施できない場合の代替教育として提案することができる.
  3. 今後どのような技術が必要になるのか?
    今回開発した非対面教育システムがいつでも誰でも簡単に使えるようなツールになれば,非対面で「技術」を教育することが容易となる.

キーワード

非対面教育,ビデオ会議システム,virtual reality,超音波検査(エコー),膀胱内尿量

The effect of nonface-to-face bladder ultrasound education on skill acquisition for beginners: a comparison of face-to-face, live distance, and virtual reality-on-demand education

Author(s)

Masaru Matsumoto1,2 Yoko Onishi2 Kazuya Shitahashi3 Yua Sugiura3 Shoko Yamamoto3 Fumiya Oohashi2,4 Takeo Minematsu2 Hiromi Sanada5 Chizuko Konya2

Affiliation

  1. Department of Well-being Nursing, Graduate School of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  2. Department of Adult Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  3. Faculty of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  4. Department of Gerontological Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  5. Ishikawa Prefectural Nursing University

Abstract

Objective: To develop a remote, live ultrasound education program using video conferencing and an on-demand ultrasound program utilizing virtual reality (VR) as nonface-to-face modes of education to obtain learning outcomes comparable to those of face-to-face education for beginners. Methods: Undergraduate nursing students, the participants, were divided into face-to-face, remote live, and VR-on-demand groups; each group was enrolled in a 30-min program. The volume of the participants’ bladder urine was measured using ultrasonography. Then, the difference between the measured volume (ml) and the true value was calculated for each group and compared among the three groups. Furthermore, subjectivity was assessed after the completion of the program. Results: There was no significant difference between the groups in terms of the value of the difference between the bladder urine volume (ml) and the true value. The face-to-face/remote live group demonstrated considerably higher satisfaction than the other two groups, whereas the remote live group showed considerably higher comprehension than the VR on-demand group. Conclusions: A new educational program enabling beginners to learn how to measure the amount of urine in the bladder using ultrasonography in 30 min is as effective in nonface-to-face education as in face-to-face education.

Keyword

nonface-to-face education, video conferencing system, virtual reality, ultrasonography, urine volume in the bladder

速報

ドブタミン塩酸塩による血管外漏出性皮膚傷害へのα遮断薬の局所注射に関する予備検討

野里 同 ほか | P.17

ドブタミン塩酸塩による血管外漏出性皮膚傷害へのα遮断薬の局所注射に関する予備検討

著者

野里 同1 菊池 佑弥1

所属

  1. 岩手医科大学看護学部

要旨

目的:ラットを用いた基礎研究により,ドブタミン塩酸塩が血管外に漏出した際にα1作用の活性化を予防するためのα遮断薬の局所注射について,その影響を予備的に検討することである.方法:ラットの背部皮下にドブタミン塩酸塩の実験的な漏出性皮膚傷害を作製し,α遮断薬の局所注射を行う処置群,そして処置を実施しない無処置群に分けて3日間肉眼的観察を行った.結果:α遮断薬を局所注射した処置群では,実験後1日目に6/10ヵ所が漏出部位の皮膚に黒色調の変化が認められた.そして,徐々に皮膚傷害は悪化し,3日目までに6ヵ所すべてが潰瘍を形成した.その一方で,無処置群も実験後1日目に6/10ヵ所が漏出部位の皮膚に黒色調の変化が認められ,徐々に皮膚傷害は悪化し,3日目までに6ヵ所すべてが潰瘍を形成した.結論:これまでドブタミン塩酸塩の血管外漏出時はα1作用の活性化を予防するための処置が推奨されてきたが,本実験ではα遮断薬の局所注射を実施した処置群は処置を行わない無処置群の潰瘍を形成した部位数に変わりはなかった

キーメッセージ

  1. 今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?
    研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?
    α1作用の弱いドブタミン塩酸塩が漏出した際に,その作用の活性化を予防する処置が有効であるかは不明であるため検討する必要がある.
  2. この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?
    ドブタミン塩酸塩の漏出性皮膚傷害に対するエビデンスに基づく確かなケアの確立に向けた基礎資料となることが期待できる.
  3. 今後どのような技術が必要になるのか?
    当該製剤が漏出した際の化学的な刺激に関する影響と皮膚傷害の組織評価についてさらなる検討が必要である.

キーワード

ドブタミン,血管外漏出,皮膚傷害,局所注射,α遮断薬

Effects of local alpha-blocker injection for skin lesions induced by extravasation of administered dobutamines: A preliminary study

Author(s)

Hitoshi Nozato1 Yuya Kikuchi1

Affiliation

  1. School of Nursing, Iwate Medical University

Abstract

Purpose: To examine the effectiveness of local alpha-blocker injection for prevention of alpha-1 receptor activation in development of skin lesions induced by extravasation of administered dobutamine using a rat model. Methods: Skin lesions were induced in rats by subcutaneous injection of dobutamine into the back skin, and the rats were divided into two groups - a group given topical injection of alpha-blocker and an untreated group - and observed for 3 days. Results: In the group given topical injection of alpha-blocker, six out of ten injection sites turned black on the first day, and this gradually became ulcerated by the third day. On the other hand, in the untreated group, six out of ten injection sites also turned black on the first day, and this gradually became ulcerated by the third day in all of them. Conclusion: When extravasation of dobutamine occurs, prevention of alpha-1 receptor activation has been recommended. However, the present findings suggest that rats develop ulcers irrespective of whether or not they have received topical injection of alpha-blocker.

Keyword

dobutamine, extravasation, skin lesions, local injection, alpha-blocker

英語論文

Validation of liquid-phase method of skin blot samples(スキンブロットサンプル液相化法の妥当性評価)

大貝 和裕 ほか | P.10

スキンブロットサンプル液相化法の妥当性評価

著者

大貝 和裕1 長谷川 陽子1 加藤 克典2 瀧澤 理穂3 額 奈々3 今方 裕子3 大西 陽子3 松本 智里3 松本 勝3,4 臺 美佐子3 紺家 千津子3 峰松 健夫3

所属

  1. 石川県立看護大学大学院看護学研究科共同研究講座看護理工学
  2. 石川県立看護大学大学院看護学研究科看護学専攻成人看護学分野
  3. 石川県立看護大学看護学部成人看護学
  4. 石川県立看護大学大学院看護学研究科共同研究講座ウェルビーイング看護学

要旨

スキンブロッティングは皮膚の局所サイトカインなどを非侵襲的に評価できる方法であるが,高度な免疫染色技術が必要であり,臨床応用がむずかしい.スキンブロットサンプルを液体の形で回収する液相化法は,簡易検査に応用できる可能性があるが,液相化法の妥当性を示す必要がある.本研究ではスキンブロットサンプル液相化法の妥当性評価のため,5種類のタンパク質を用いて(1)液相化タンパク質の回収率と(2)アプライしたタンパク質量と液相化によって回収されたタンパク質量の相関をそれぞれ評価した.その結果,(1)ウレアーゼの回収率が有意に低かった(P=0.046)ものの,(2)すべてのタンパク質で,アプライ量と液相化タンパク質量に有意に高い相関(0.90≤r≤0.98;P<0.05)が認められた.スキンブロットサンプル液相化法は,定量性の点で妥当と考えられた.

キーメッセージ

  1. 今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?
    研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?
    非侵襲的に全身状態を評価できる方法の1つであるスキンブロッティングは測定に実験室レベルの技術を要するため,より簡便な測定方法を開発する必要があった.
  2. この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?
    スキンブロットサンプルの液相化によって,イムノクロマトのような簡便な測定方法を活用できる可能性が示された.
  3. 今後どのような技術が必要になるのか?
    液相化の時間短縮,液相化サンプルの簡易測定装置の開発,それらの妥当性検証が必要となる.

キーワード

スキンブロッティング,タンパク質,液相化,妥当性

Validation of liquid-phase method of skin blot samples

Author(s)

Kazuhiro Ogai1 Yoko Hasegawa1 Katsunori Kato2 Riho Takizawa3 Nana Nuka3 Yuko Imakata3 Yoko Onishi3 Chisato Matsumoto3 Masaru Matsumoto3,4 Misako Dai3 Chizuko Konya3 Takeo Minematsu3

Affiliation

  1. Department of Bio-engineering Nursing, Graduate School of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  2. Department of Adult Nursing, Graduate School of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  3. Department of Adult Nursing, Faculty of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University
  4. Department of Wellbeing Nursing, Graduate School of Nursing, Ishikawa Prefectural Nursing University

Abstract

Skin blotting is a method to non-invasively evaluate local cytokines and other substances in the skin. Still, its clinical application is difficult due to the need for advanced immunostaining techniques. The liquid-phase method, which collects skin blot samples in liquid form, has the potential for simple testing, but the validity of liquid-phase method needs to be clarified. This study evaluated the validity of the liquid-phase method by assessing (1) the recovery rate of liquid-phase protein and (2) the correlation between the amount of applied protein and that of protein recovered by the liquid-phase method, using five types of proteins. The results showed that (1) while the recovery rate of urease was significantly lower (P=0.046), (2) there was a significant, high correlation (0.90≤r≤0.98; P<0.05) between the amount of applied and liquid-phased proteins for all proteins. Therefore, the validity of the liquid-phase skin blot sample method was demonstrated quantitatively.

Keyword

skin blotting, protein, liquid phase, validity

実践報告

看護学生のエコー使用が解剖生理学の学習意欲に与える効果:パイロット試験

望月 麻紀 ほか | P.22

看護学生のエコー使用が解剖生理学の学習意欲に与える効果:パイロット試験

著者

望月 麻紀1 鈴木 美穂2

所属

  1. 東大和病院看護部
  2. 慶應義塾大学看護医療学部

要旨

看護学生にとって解剖生理学は暗記が多い科目で,その学習は,授業単位の取得や国家試験合格といった他律的な動機付けにとどまりやすい.本研究では,超音波検査装置(エコー)で生体内部を描出する体験が,学生の自律的な学習意欲に与える影響を検討するパイロット試験を実施した.大学2年生の研究参加者11名のうち,介入群6名にエコー使用体験講習を行い,対照群5名には何も行わず,講習前と講習1ヵ月後に大学生用「自ら学ぶ意欲」測定尺度で自律的な学習意欲を測定した.研究参加者は自律的な学習意欲が高く,天井効果が認められ,両群に統計学的に有意な変化はなかったが,介入群の自ら学ぶ意欲は対照群にくらべて高く維持される傾向にあった.介入群に講習直後に実施したアンケートでは,参加した6名中,6名が「知的好奇心が満足した」,5名が「有能感が増した」と回答し,解剖生理学の学習への高い関心を示した.エコーを用いた教育の自律的な学習意欲への影響はさらなる研究が必要である.

キーメッセージ

  1. 今回の研究は看護・介護のどのような問題をテーマにしているのか?
    研究を行うきっかけとなったことはどのようなことか?
    看護学生の解剖生理学の学習は,看護実践において必要性を自覚し,能動的に習得しようとする自律的動機ではなく,定期試験や国家試験といった他律的動機による一時的なものになりやすく,学生のうちから自律的動機を強化できるとよいと考えました.筆者は在学時にエコーのハンズオン講習で生体内部を観察し,解剖生理学の学習意欲が高まりました.
  2. この研究成果が看護・介護にどのように貢献できるのか?あるいは,将来的に貢献できることは何か?
    看護師養成課程におけるエコーの教育効果の新たな可能性を検討しました.エコーを用いる教育と用いない従来の教育の1ヵ月後の効果を,自ら学ぶ意欲と解剖生理学の学習姿勢の自己評価により,無作為化比較試験でくらべる方法を提示しました.
  3. 今後どのような技術が必要になるのか?
    看護学生の自律的な学習意欲を測定する適切な尺度を検討するとともに,看護師養成課程にエコーを導入しやすいよう,操作性がよく,安価な機器の開発が必要と考えます.

The Impact of nursing students’ use of ultrasound on their motivation to learn anatomy and physiology: A pilot trial

Author(s)

Maki Mochizuki1 Miho Suzuki2

Affiliation

  1. Higashiyamato Hospital, Division of Nursing
  2. Keio University, Faculty of Nursing and Medical Care